最近文書書きたくなるけど、書きたくねー。
創作意欲がまるでない。
いや……継続しない。
文書書き始めるとすぐにやめる。
これはヤバイぞ。
取り敢えず休憩がてら寝て、明日の自分になんとかしてもらおう。
おやすみなさい。
最近文書書きたくなるけど、書きたくねー。
創作意欲がまるでない。
いや……継続しない。
文書書き始めるとすぐにやめる。
これはヤバイぞ。
取り敢えず休憩がてら寝て、明日の自分になんとかしてもらおう。
おやすみなさい。
僕には桜の樹木が見える。それは色んな人の頭の上にあるのだけれど、まだ蕾の人やそもそも芽吹いてもいないものまである。環境や四季などには全く作用されず、一切干渉ができなくて、可視化できているのは自分だけ。
不思議な気分だった。今だって大きな街の朝の大通りを歩いているけれど、一人一人で模様に差異があるのでやっぱり不慣れな景色だ。
僕にはこの桜が"何を示しているのか"が分かる。だから、脳がこれを理解してしまった時、"桜"という形で成立した表現的な優しさに僕は複雑な心境でいた。
これを綺麗だなんて、一口で賞賛できるわけがない。
人々が忙しなく足取りを交差させる中、僕は偶々鏡張りの窓ガラスを見つめ驚愕に目を見開いた。
「……あ」
前述した通り、僕には桜の樹木が見える。そして、桜がどれだけ成長したのかも分かる。
僕の左側を歩いている、女子高生。その人の頭の桜は満開に咲き誇っていた。
華のある美人とはこのことだろう。何も知らなければ、アレを美しいと感じたのだろうか。
今は冬。こういうのは狂い咲きとも言うんだろうが、もっと多角的な視点を持っていれば、こんなものを可視化させる脳の方が狂っている。僕は背中に冷や汗をかいて、乱れた呼吸を繰り返しながら窓ガラスにうずくまった。
失った平衡感覚が徐々に戻りつつあるのを感じながら、僕はこの桜の正体を反芻する。
"桜の成長で、その人間の死期が分かる"。
「ぐっ……」
芽吹かない、蕾である時点ではまだ死は訪れないのだが桜が開花していけばそれは緩慢と死の足音が近づいている証拠だ。そして、満開となればもうすぐ。
平静な思考に僕は努める。が、上手くはいかず余計に思考の拍車がかかる。
あの人はどういう死に方をするのだろう、最後に何を喋り、誰と出会い、何を食べたのだろう。
人には一つ一つの人生がある。だから、そう思うだけで死神が首に鎌を構えている光景が他人事ではないと分かる。
僕は一気に今までの混乱を飲み込み、その人に駆け出した。
「すみませんっ!!」
女子高生は僕に振り返る。見るからに、僕より年上だ。
「なに?」
女子高生は警戒の色を強めながら、眉を顰めてこちらを見つめる。
「えっと、その……」
なにを言えばいいのか浮かばない。もうすぐ貴方は死にますなんて言えるわけがない。だからこそ僕は焦燥する。背後の死に無頓着な彼女が、ものすごく不愉快だった。しかし、ここで怒鳴ったり冷静さを失っては伝えるものも伝えられない。
目を泳がせて、口をパクパクとさせる僕。女子高生の頭上を見つめては、言葉に行き詰まり逡巡する。
女子高生はいつまでも何も言わない僕に鼻白む。
「時間ないからもういい?」
「あ、そ、その……ごめんなさい」
素っ気なくそう言って女子高生は去っていく。
僕はなにがしたかったんだ。事実は事実だが、僕だけが知っている情報はあまりにも現実味がなさすぎる。それを伝えて、徳でも高めたかったのか? 変に高尚なものは考えず衝動で動いてしまったが、振り返ってみれば今まで一度だってそういう人を救えたことはない。
強く唇を結んで、僕もその場を後にする。
……そういえば小説でこんな言葉を知った。"異常者にとっては、周囲の全てが異常に見えるもの"なのだと。
こんな力を宿す僕にとって、僕はその言葉が適用される枠組みなのだろう。
結局、これは個人のものだ。
決して共有できない冷たい孤独に凍えた力なんだろう。
死とは人間にとって唯一の平等である。そして誰にも理解されない悲劇と結末の訪れを知れる自分は平等を知れる、唯一の不平等なんだろう。
……後から聞こえたのは鼓膜を裂くようなクラクションと、地響きのような強烈さを伴った衝突音だった。
あぁ、それとこんな言葉もあったっけ。
背後で響き渡る悲鳴や怒号に振り返らず進み、僕は誰にも聞こえない声で呟く。
「"桜の木の下には死体が埋まっている"」
女子高生の朱色に染まった桜は、死の淵に落ちても美しく咲き続けていた。
……ところで。
哀と、愛は、読みが同じだけじゃないだと思う。
この二つに"涙"は付き物……背中合わせの感情で、きっとこの景色に終点はない。
愛は欲しいものだけど、哀は消え去って欲しい感情だ。
だって、何が悲しいのかさえ忘れてしまいそうになったらそれはきっと、何もかもに絶望した感情だと思うから。いくつもの温もりと優しさを紡いでも、きっと辿り着けない世界はあるから。哀はきっと求めるものでも、与えるものでもなくて……人から何かを奪うものなんだって。
僕は、あの夏の終わり頃。蝶が金木犀に口付けをするその時に、初恋の彼女にそう告げようと学校の階段を昇る。
屋上へと繋がる道は果てしないように見えて、近かった。
屋上に着き、僕の身体を攫うような風が吹いた後……黒髪を揺らす美貌がこちらに微笑んだ。
彼女は美人だけれど、控え目な性格だった。遠慮がちで、常に人のことを考えられるけれど、遠慮な態度が災いしてちょっと視野が狭かったりする。
「こんにちは。今日は夕陽が綺麗ね」
……僕にはどちらが綺麗なのかなんて、甲乙つけがたいものだが。僕は、呆気に取られた表情から、生真面目な表情に切り替える。
「……なぁ」
「なに?」
「……こんなことを訊いてはいけないのは、分かってる、んだけど」
我ながら歯切れの悪い。未だに、僕は逡巡する。だってそれは今の彼女の"状況"のせいにあった。
彼女は"ずっと付き合っていた幼馴染に振られた"。
そして、"親から歪んだ愛情を向けられ、虐待し続けられている"。
前者は友人から。後者はその幼馴染に詰問した。
僕の想像が及ばない程の傷跡。その火傷は次々と、彼女の心を延焼しているようで無力である僕は僕に反逆し、ずっと片思いをしていた彼女に話しかける決意をした。
けれど、これじゃあ……。
「私の今について、聞きたいんでしょ?」
淡々と彼女の唇から告げられた言葉に、無言で頷く。
「どうして、そこまで自分を抑えるんだ?」
彼女は屋上の端に取り付けられた低いフェンスを握る。
「君は、君を曝け出せばいい。悲しいなら涙を誤魔化さなくていい。だって、何が哀しいのかさえ分からなくなったら、それは……」
何もかもに絶望したってことだろ? そう言い切る前に、彼女は美しい朱色の頬を赤らめいじらしく笑う。
「それ、貴方に関係ある?」
……。
「これは私個人の問題で、この哀しみも、辛さも、私だけのもの。優しさや温もりを繋いでも、見えない世界なんていくらでもあるんだから」
彼女の瞳の奥には諦観が湛えられていた。それもそうだ。彼女の昔からの付き合いの親友も言っていた。
『あの子はもう、私たち人間が干渉しちゃいけない。人間を恨んで、可能性を諦めきってる』
隔てのない彼女の性格や、優しさは非常にクラスの中でも学年でも人気があった。それは、自分の親のような歪んだ動機ではなく、ただ自分のような寂しい境遇を辿る人間を増やさない為の静かな優しさなんだと思う。
彼女はフェンスを乗り越え、そして再び和かにこちらへと微笑んだ。
「……流す涙が枯れてしまったら、これ以上何を犠牲にすればいいの? もう何も分からないから、希死念慮があるんじゃない」
違うよ。そうじゃない。そうじゃないんだ。
「哀も愛も大嫌い。どっちもいつか私を嫌ってそっぽを向く。この世界だって」
ーーー大嫌い。
消え入るような、言葉が屋上の沈黙を破った瞬間、僕は懸命に駆け抜けた。
諦観する彼女に向ける視線は非難かもしれないし、咎めるようなものなのかもしれない。
「僕がッ、いいたいのはッ!」
けれど親友である彼女は言った。
『哀しみの哀はきっと愛の裏返しだと思う。きっとあの子は、本物の愛が欲しかった。愛情を求めてた。だから、何もできなかった私の贖罪は愛を与えること。お願い、非力な私からで申し訳ないけれど……』
仰向けのまま倒れるように宙に堕ちる彼女。僕は駆け寄り、精一杯の否定を込めて力無く重力に身を任せる彼女の手を握る。
『あの子を、連れ戻してきて』
その決然とした一言が、僕を現実に引き戻した。
「君も僕も、この世界でやり残した事がたくさんあるはずだ! 僕は君の親友と約束した。必ず、何があっても、連れ戻すって!」
哀も、愛も、結局は彼女から全てを奪った。
なら次にやるべきは……。
「リスタートだ! 君には、報われる権利があるッ。温もりと優しさを紡いでも辿り着けない世界はあるけれど、涙をさらってしまう程の世界があるのなら! 君はその世界に辿り着く権利がある人間なんだから!」
彼女の瞳から涙が溢れる。それはただの哀なんかじゃない。僕の愛を受けた、精一杯の彼女からの哀のお返しだ。
だから、返すことに精一杯で。
「ぐぬぬ!! ぁあぁ!!」
自分のことを置き去りで考え続けて、彼女がフェンスを握った瞬間。
僕は頭から宙に浮かび、そのまま、堕ちていた。
最期に見えたのは、必死に手を伸ばす彼女と、蕾を開いた金木犀から飛び立つ……。
一羽の蝶だったーーーーーー。
無色の記憶/
人を殺した。
コンクリートに広がる紅は美しかった。煙草の灰ですら染めるその純然さは、吸血鬼が血に耽美的な姿勢を持つ理由が分かる。
けれど不思議だ。
あれだけ色褪せた世界が一瞬で別の色に塗り替わるなんて。
思ったよりもあっさりで、一寸の狂いもなく寸断された。
紅色が全部染め上げてくれた。
血の異臭が冷静と倒錯した思考に拍車をかける。
……あぁ、そうか。
無垢であるから染まりやすい。
どれもこれも知らないから染まりやすい。
なにも得られないから染まりやすい。
あぁ……世界って思ったよりも"空っぽ"なんだ。
内心で呟いた嘲りが、頬に伝染した。
歪んだ形となって ─────
/無色傷
生まれた時から色は決まっている。
世界の色は心を持った者が染めた色。だから、ありとあらゆる形で色という名の禍根を残せる。紡がせることができる。決まった心の色があるから、"感じ方はそれぞれ"なんて言葉で事柄を片付けることができる。
うんざりだと自分は思う。けれど、なにも覆す手段がないわけじゃない。
色は塗り替えることができる。けれど、個々が持つペンキなんてものは一つである。肯定も否定も個人が"定めたもの"だから色は結局同一なのだ。
理不尽だろう。選択肢が一つしかない染まり方なんて。
だが、一見そう見えるそれは心を再び生んでいる。素晴らしいことだ。人の在り様を変えることを人々は更生だとか失墜だとか正邪を基準に言葉を選ぶけれど、きっと周囲の常識はそういった観測にあるんだろう。
けれど中には"なにものにも染まらない色"はある。
嘘と色を重ねれば重ねるほど真っ黒となるように、なにも受け入れない拒絶が満ちた色である。なにものにも染まらないから、染めようとするものは許さない。元々、染めようとする人の悪意が元凶だし、殺されそうになったから反撃したのと同じ正当防衛なのだ。
だからこそ盲目的になる。自らに意志はなくとも、同じ色に染められて食われてしまえば、"分からなくなる"のだ。
過去の色が、生まれ持った色が、経験として積み重ねた色が。
観測者がいるからこそ色も物事も消失しないのに、それは観測者すら失わせる透明な悪意である。
「……と、言うのが自分の考えなんですけど」
「興味深いけど、極論がすぎるね。なにものにも染まらない色ってなんだい。どんな硬派だ、って感じ」
レトロな雰囲気の照明が男女二人の影を灯す。住宅地にひっそりと佇む現代的な外観を持つカフェ。けれども、外と中身とではまるで様式も空気感も違う所謂、ギャップを楽しむ設計がなされた物珍しいところだ。
好事家な八柳 菫子と、思想を披露する常狭 士輝にとっては秘密基地のようなものなので特に感じ入るものもない。向かい合うように二人は座り、コーヒーを飲んでいる。
「ところで、だ」
「話を逸らさないで下さい」
「……士輝くんは真面目過ぎるからな。少しくらいはアンティークな話題での路線変更も大事だ」
「まぁ、そうですけど」
士輝は不服ながらも、それ以上話を進展させず傾聴する。
「ここ、どうだい?」
「ここ?」
「このカフェだよ。僕たちぶっちゃけ欠落してるだろ?そういうのがさ」
菫子はタイツに包まれた足を組む。サラサラな黒の横髪を少しいじりながら。
「まぁ通ってる割には何の感慨もないとは思いますけど」
「焦点が違う。僕らには人間的な"欲求"がないんだよ。雰囲気が好きとか構造に魅力を感じるとか調度品のセンスがいいとか……だからもっと色んなものを知りたい、体験したい、そういうのだよ」
「大体、そういうの気分っていうと思いますよ」
「惜しいね。人間的な欲求っていうのは派生から生まれるんだ。気に入った本があったら、その作者の本や同じジャンルの本が連鎖的に欲しくなるように基本、欲求は際限が無いものだ。けれど、僕たちはここに固執しすぎている。士輝くんの言う通り、なんの感慨も目的意識もないくせに通い続けている。何かが気に入れば今度は類似点が多いものに手を伸ばすのが道理だ。それに食べ物とか飲み物が特別美味しいとかそういうのでもない。通い続ける理由がないのに、通い続けている。そこが僕のいう欠落だよ」
「……はぁ?」
要は全くなにも派生したり、発展したりしない現状が人間とかけはなれた常識の形をしている……ということを無意識下の士輝の欠乏感に自覚させようとしているのだろう。
士輝は"さほどかけ離れているのか?"と、要約した内容に小首を傾げながらも黒々としたアイスコーヒーで喉を潤す。
「ふぅ……ちょっと頭を冷まして冷静になったのでもう一回思想発表してもいいですか?」
「物理的な頭の冷やし方だね。今度はアイスバケツチャレンジでもしてみるかい?」
両腕で頬杖をつきながらこちらに微笑を向けて喋りかける。
いい匂いがするが、別に自分はなんの感情も抱かない。
それよりも、だ。
「菫子先輩、そういうのみるんですか?」
「いいや? 経験はないが知識はあるよ。……あーあ、なんかこれじゃあ僕が空っぽみたいじゃないか。なんてことをしてくれるんだ」
「自滅ですよ、それ」
「話題提供をしたのは士輝くんだ。責任とってよね?」
唇に親指をあててつぶらな瞳で見つめる。ぶっちゃけ、菫子は士輝の美醜の観念の中で言うと群を抜いて美貌といえる。
取り分け独断というわけではなく、街を歩けば男の瞳と心を容易に奪う魔性さを目の前で見ていれば自ずと伝わるものだ。性格にそれが伴うかは別として。
「いけると思います?それ」
無関心を徹底する士輝、それをいつも通りと言わんばかりに菫子はクスッと笑って「いいや」と同意する。
「僕は性格が悪いんでね」
「知ってます」
「人をいじるのが性でね。どうしても、"反応"を見るのが楽しい」
「知ってます」
「なので無反応な君が腹ただしいけれど、同時に愛おしい」
「それは知りませんでした。でも自分は菫子先輩が嫌いです。二回そのせいで臨死体験してるんで」
とんでもないことをサラッと言いのける士輝。
「それで、瞳がおかしくなったんだろ?僕としては瞳に振り回される君を見ていて十分に楽しいよ」
「自分は菫子先輩に責任を取る形で生涯添い遂げてもらうので。時折変な化け物が寄ってきますし」
「魔は同じ魔を呼び寄せる……ってことで最近あった事件を見ようか。あ、お嫁さんになるのなら大歓迎だよ」
そういってパン、と手を叩くと近くのバックからDVDとパソコンを取り出した。
「なんですか?それ」
「僕が君のためにとった映像さ。所謂、アダルトビデオ」
「先輩の体に興味はないけど、その腐った頭になら興味あります」
「まぁ今から見る映像は、なにもかもが腐っているけれどね」
「……」
パソコンを起動し、菫子の軽快な操作ののち士輝に画面が向けられた。映っているのは監視カメラの映像だ。場所は人気のない高架橋の下に取り付けられたものだ。
士輝が眉を寄せる。時折、砂嵐が映像を乱すが、確かに何かが映っている。気味の悪い動作、千鳥足な歩調、人型ではあるがただの酔っ払いではない。
何よりも、この人間らしきものには、
「影が、ないですね」
「……正解。それだけでこの世のものではないことははっきりしただろう?」
「でもこれとその事件の関連性は?」
「ふむ。なら結論から言ってしまおう。"ゾンビ"が今、人間たちを襲っている」
……何を絵空事を、と言いたげに士輝は頬杖をつく。しかし、この"瞳"がある。故にそれを都市伝説とか加工した映像だと決めつけて片付けることはできない。歯がゆさに視線をそらす。
むしろ、この"瞳"に引き寄せられたのではないかと、自らの魔性には辟易としてしまう。
「ゾンビって……死霊魔術というかなんというか」
「仮初めの命を吹き込まれた存在。といっても命そのものはなく、内在する魔力が心臓のようなものだけれどね。だから、君の目はその魔力の奔流の死を線で見るのだろうね」
「……殺せるものなんですか?」
「君の瞳は生きる者の脆い場所を線として観れる。生者とも死者とも区別のつかない存在は死を理解できないから殺せないだろう。だが要は操り人形の糸の部分を切ればいい話だ。死者には自我がないからね。糸は魔力のようなものと捉えてくれればいい」
「けれどそれなら操り人形を操る存在がいる……ってことですよね?」
「勿論。今回はその懐柔者の退治だ」
「……」
士輝は何故か俯いたままだ。珍しい反応に、菫子は意外といった反応を見せる。
「どうしたんだい?やっぱり僕のアダルトビデオの方がラッキーだったかな?」
「……いえ。何故、死者を操れるのかなって」
「そこまで気にやむ必要はないよ。所詮は魔力によって動かされてる抜け殻に過ぎないからね」
「そうですか」
煮え切らない士輝の反応に菫子はニヤリと笑みを浮かべる。
「いいかい?士輝くん。空には何があると思う?」
「え?そりゃ、雲とか、鳥とか?」
「正解はね、"異界"だよ。神様が住む世界、とも取れる。元々は人がそこに立ち入るのは禁忌なんだ。人間には地上という世界が提供されていて、無闇に別の世界に入ることそれは単なる侵入行為に過ぎないんだ。神様は住む世界を分断することで秩序の維持を計った。だから人は翼を与えられなかったし、浮遊力も与えられなかったんだと僕は思ってる」
「……」
「けれど、この世に"異界"は二つある。もう一つは地上の下、日本でいうところの地獄、神話などでは冥界とか幽界とかそういう風に言われてるもう一つの次元さ。ここはね、空よりも何倍もタチが悪い。死者は土の下に埋葬される。だからこそ、それは地上の常識から外れた、といっても過言ではない。ルールもモラルもない、完全なる治外法権の地帯。そういう穴に"異界"の常識は適用される。だから、本物の死者が仮初めの魂を与えられて息を吹き返したって可能性も残念ながらあるわけだ」
士輝は両手を握りしめる。感情が欠落したからといって、死者を冒涜する存在や周囲がどうでもいいなどと退屈感があるわけでもない。
今回が初めてというわけでもないのだが。
おかしな気分である。
「では、そろそろ行こうか。長居しているとあまりいい目では観られないからね」
「……はい」
自分たちはカフェを後にする。ただ、外には冬を感じさせる冷気が満ちていて士輝は寒がる菫子に上着を着せてやることしかできなかった。
折り合いのつけれない感情に、未練がましさを覚えながら。
外の空気は美味しい。あぁ、勘違いしないで欲しいんだが、この美味しいとは多様な味覚を指す言葉じゃない。
澄んでるとか綺麗だとか、そういうのを示している。
率直に言うと今自分は三日振りに外に出た。ちなみに自分はそれは時間を遡ること……なんて小説家のような読者を引き込ませる技法は持ち合わせていないので結論から言う。
自分は、"死んだ"。
何処で、そうだな……何の変哲もないマンションの自室の中で、というのが適切なのだが。
自分だってセキュリティは万全のつもりだ。例え北のノルフェインから来た横暴な魔族でも撃退できる術は持ってる。
かといってなにも起きないはずの自室で死んだ……というのがやはり適切なのだな。
それ以外しか表現する方法がないだけたが。
──────── ──────── ────────
「まぁ、そんな言った風で俺は殺害された」
親指を立てて己の死を力説する謎の青年。胸あたりは血だらけでシャツはビリビリに引き裂かれている。
艶やかな黒髪や目鼻立ち整った顔にへばりついた自らの血、だというのに五体満足というのはなんだか支離滅裂である。
「死んだという自覚がない厄介な亡霊ですね。さっさと成仏を」
そして目前にいるのは非常に麗しやかな印象を受ける女性。視線は常に一定で、慣れているのか眉も皺も動かす気配はない。
一口に美形といってしまえばそうなのだが、先程の台詞からして毒を吐くことに何ら受け入れがたいものはないようだ。周囲から見ればこの男女は、言動と常識の照らし合わせからみて歪んでいるといっても相違ない。
「それで、何か覚えてるんですか?」
「全く。なんとも記憶とは不便なものだね。形の悪い過去ばかりを掘り起こし、形の良い過去は幸福と一緒に脳に溶けていく。やっぱり人間って愚かだよ。滅べばいい」
「それって自分も死ぬことになりますけど」
「なに言ってるんだ?そんなこと重々承知の上だが」
死滅願望の承知とは一体なんだろうか。むしろ、愚かさを知っているのに向き合う努力をしない己が愚かだと気づかないのか。それでも彼は「やはり愚かだな。滅べ」というのだろうが。
女性はヤケに重いため息を吐くと、シャーペンと紙を取り出す。
「本当にないんですか?死んだ時の記憶」
「うーむ……生き返る感触だけは覚えているのだが。あぁ、だけれど一つの確信があって言えるのは自殺ではないということだ」
「さっき言ったじゃないですか。まぁ現場の状況からして、ハディさんの抵抗の跡や包丁などの凶器の類は見当たらないので他殺でしょうね」
ハディと呼ばれた青年はそれを聞いて肩をすくめる。
「なにか?」
「いやぁ。なんで蘇ったのかなって」
「私が知りたいですよ。そもそも、私殺害された時はいませんでしたからこれを自作自演で処理できもするんですよ」
「はは、冗談きついな。ここまで大袈裟なことしないでしょ」
ハディは玄関に座り込み、眉一つ動かさない女性と視線を交差させる。
「いえ、ありますね。だってこれ今に始まったことじゃないじゃないですか」
「……?」
「以前も首吊り自殺の件や、入水自殺の件や、不発弾自殺の件やら挙げるとキリないですよ。どうやったらそこまで世の憂い方を拗らせられるんですか」
ハディは首をかしげるが、あぁ!と一つ頷くと目を輝かせて胸を張り出した。
「人類が愚かだと思えればいくらでも常識は狂う!」
「愚かってほんと利便性高いですね〜」
「当たり前だろう!君も僕も愚かなんだよ。痛みや傷を隠しながら目的に向かう姿を愚直とも言うが、なにもなく目的に向かうだなんてことはあり得ないだろう!?人の愚かとは生きる上では必須の美徳、けれども悪徳の表裏を持つからこそ滅べばいいんだよ!」
「……………ちょっと高次的すぎてよくわからないのですが。わたしにも分かるように説明してください」
「ふむ。話をやめよう。俺は常に生産性を求めるのだ。マリー」
マリーと呼ばれた女性は目を細める。
「愚か、愚かって言ってる人の言葉に生産性ってあるんですか?」
「ない!」
「………」
やはり価値観が完全に相容れない。逸脱していると言えばそうなのだが、このハディという男は筋金入りだ。
くだらない詭弁を弄する口の相手にするより、"能力"の使い方を教鞭するために相手をした方がまだ人類のためだと思う。
「結局、自作自演ってことでいいですか」
「待て。それは間違っている。俺の人類滅亡のシナリオの完遂の為の死なんだ。蘇ることで魂だけの存在となり、そこから愚かな人類が滅ぶ姿を俯瞰し高笑いすることが……」
すると突然、ハディの目の色が変わる。即座に立ち上がり、右足を基軸にするとマリーは彼の胸元へと抱き寄せられる。
「ふぇ!?」
そして軽快に一回転した瞬間、巨大な轟音と共に廊下の突き当たりには何重にも亀裂の入った穴が口を開けていた。
「チッ。女は殺せると思ったが」
「新手の魔族か。全く、俺は魔族だからと言って滅亡のシナリオから外した覚えはないが?」
「ハッ。ペラペラと減らず口だけは達者な野郎だ。で?テメェがあの"虚落としの魔眼"の所有者で、いいんだよな?」
「……何故、それを教えないといけない?」
厚い胸板の中で、何か熱を帯びる感覚を覚えながらハディは淡々と応対する。
「君には教えることはないな。なにせ、愚かだからだ。愚か者が愚か者に何か教えたところで発展性はあるのかい?」
「あァ?何言ってんだテメェ」
「単純明快だろう。テストで零点の小学生がテストで零点の高校生にものを教えるくらいに無謀だと怜悧な頭脳による精密すぎる分析を君が見ている妄想に現実という形で押し付けることで愚かさを立証してあげている自分なりの善性というやつだが?」
「うるせぇなぁ。ごちゃごちゃ言わずによこせよ、その魔眼」
「いやだ、といったら?」
「力づくで……だなァ!!!」
これは職業不定の二人が、魔族による襲撃から逃れる話。
深い深い闇に覆われた夜のことだった。
「ヴォルフ?」
「ネ、ネフィリアさん……」
ヴォルフと呼ばれた青年は、自分よりも短躯な少女であるネフィリアを前に後ずさる。
いつもより落ち着きのない彼を前に、ネフィリアは何かを勘繰ると不服そうに頬を膨らませた。
「……なに?お姉ちゃんに、隠し事?」
「い、いえ。別に」
「ヴォルフ、隠すの下手くそ」
「う……」
血の繋がりは無いものの、やはり姉という立場の強さに圧倒されるヴォルフ。彼女の瞳に一切の邪念はないところが、何とも反発を促せない要因でもあった。
「……んです」
「……?」
「も、もう!一人で眠れないんですよ!言わせないで下さい!」
「眠れない?」
ヴォルフはコクリと頷くと、その場でうずくまりさめざめと吐露し始める。
「うぅ……情けない。レヴナントさんに合わす顔もなければ、こんなので本当にラグナロク様の剣になるなんて到底無理な話……」
「ヴォルフ」
鈴を転がすような透き通った美声に彼は思わず言葉を紡ぐのをやめた。
「は、はい」
「今はレヴナントとか。ラグナロクとか、どうでもいい。眠れないならお姉ちゃんと一緒に寝よ?」
「そ、添い寝ってことですか?」
小首を傾げるネフィリアであったが、瞬きの間の静止のあと無感動に頷いた。
「え、えぇ……」
ヴォルフがため息を漏らしたのは、ネフィリアの無知さ故の抵抗の無さだ。
内容を理解していないのが今の仕草で丸わかりである。
立派に成長した一丁前な青年が同衾するなど、プライドやらなんやらがやはり許容しないのである。
流石の彼もこれに限っては断る案件だ。
「すみません。何とか一人で寝れるように努めるので、それにレヴナントさんにバレたらなんと言われるか……」
「……そんなこと気にしてるの?」
「い、いやそもそも倫理的に男女が一つのベッドというのも些か相反しているというか!」
「お姉ちゃんと弟でしょ?」
「……っ」
その純真無垢な瞳で見つめるのはやめてくれ!内心で彼は冷や汗をかきながら叫んだ。
鼻と鼻がくっつきそうなほど肉薄した二人の表情。ネフィリアは眉を寄せては、ヴォルフを小動物のようにジッと眺めている。
夜風に打たれて冷静になったのか、その方が眠れず明日の鍛錬に支障が出ては困ると判断したヴォルフはゆっくりと首肯した。
「わ、分かりました。僕の部屋に一緒に行きましょう……」
こうして、僕はプライドを捨て半ば自暴自棄になりながら鈍重な足取りで部屋へ向かっていった。
深夜。
二人が小さな寝息を立てている時だった。
「う、ぅむ……」
ヴォルフ青年が微睡みの中ながらも、現に帰ってきた。
目をこすりながらベッドを手繰っている時。
はっ!と隣の柔らかな感触に反応すると、完全に意識を取り戻した。
「そ、そういえばネフィリアさんが……」
「ん……ヴォルフ?」
「あ……すみません。目、覚ましちゃいましたね」
「……いいよ。お姉ちゃんは寛容だし寝起きもいいから。どうしたの?」
「あ、あぁ。少し、お手洗いに」
「お姉ちゃんもいく」
「あ、はい……ってええ!?」
ヴォルフも平静になる。一人で眠れないやつが、夜中にお手洗いなど一人で行けるほど肝っ玉が据わってないことを看破されているのではないか?、と。
そういうことならと彼も頷いた。
「じゃあ、一緒にお願いします」
こうして共にお手洗いに行くことになったのだが……。
着いて男子の方に入ろうとした瞬間、平然とした表情で背後からネフィリアがついてきた。
「ちょ、ちょっとネフィリアさん!」
「……?」
「流石に入っちゃダメですよ!常識くらいは守ってください!」
「……常識?お姉ちゃんは気にしないよ?」
「あぁんもう。そういう意味ではなくてですね!流石に女性に見られながら用を足すというのもハードルが高いんですよ、こちらとしては!」
「?気にしなければよくない?そんなに難しい?」
羞恥心というものがないのかこの人は!
再び内心で叫びながら、ネフィリアの背中を押して入り口まで退避させる。
「もう!ダメですからね!入っちゃ!」
「…………………………えー」
「えーじゃないです!まったく!姉だからといって弟の行動が何でもかんでも監視されたら……束縛にも限度がありますよ」
その後用を足し、普通に部屋に戻って寝た。
朝起きたらめちゃくちゃヴォルフの寝起きよかった。
おわり
「……火焚?」
「おー亜輝ちゃん!壮健かー?」
軽快になった携帯から聞こえた快活な音声。
公園にいた光瀬 亜輝は眉一つ顰めることなく、電話主である火焚 唯香へと平坦に対応する。
「別に」
「なんや!今日はクリスマスやで〜?もしかしてクリぼっち?」
「切るよ」
「ちょ、ちょちょ待ちいや!冗談やで、冗談!!」
光瀬は火焚の軽口に耳を貸す気配なく、火焚は必死に誤魔化すような笑いをする。
「せっかくクリスマスだし一緒にケーキでも食べに行こか!クリぼっち同士、冷めた心を温めなおそうや〜」
「……」
付き合う義理など何処にもないが、音楽を片耳に公園の景色だけを眺めるよりかは有意義な暇潰しだろう。
そう考えた光瀬は一つため息を吐くと目を瞑ってぎこちなく答える。
「分かった。行こう」
「よっしゃ!いいとこ見つけて亜輝ちゃんの頬っぺた落としたるで〜!!」
「……」
こうして二人はとある場所で待ち合わせをしてとある喫茶店に向かうことになる。
────────
O市のとある繁華街。
人々が賑わう雑踏の中、一人光瀬は携帯をいじりながら音楽を聴いていた。
時折、冷えた手に吐息を馴染ませながら暖まっていると聞き慣れた声が耳朶に響く。
「亜輝ちゃ〜ん」
光瀬はイヤホンを取りながら、仏頂面で満面の笑みで近づく火焚に視線を向けた。
「ごめん、ごめん。待った?」
「別に……っていうか火焚。……隈増えた?」
「あ、あぁ。最近仕事が多忙でな〜。不衛生なのは承知しとるけど」
「……ま、いいわ。行こ」
そうして二人は繁華街の中を淡々と歩き続ける。
「亜輝ちゃんは学校かいな?」
「……まぁね」
「いいな〜、憧れるわ。私とか最近支部長に振り回されたり任務に駆り出されたりでな。女の子への扱いが少々雑だと思うわ」
「……ま、それは否定しないけどね。アイツの件で私も学んだし」
「……そうよな。てか、聞いてよ亜輝ちゃん。私の体もうボロッカスでな〜一回支部長にどついたろか思ったけど有給取るくらいで勘弁してやったわ」
「そ」
「えー、なんやねんその反応! もっとこうあるやろ!私を褒めるとか!」
「逆に褒めるとこある? 意趣返しに有給とか向こうからしたら迷惑だと思うけど」
「うぅ〜……」
他愛もない会話をしながら目的地へと向かう二人。
すると火焚が「あっ!」と表情が明るくなると、独りでに駆け出し年季のある建物の前で止まった。
「ここやでーここ! ここ!」
年相応な女の子らしく、華奢な手を振ってみせる。
それを見た光瀬はため息を吐くと、緩慢な歩調で喫茶店の外観を見回す。
「……ふーん。火焚にしては結構お洒落」
「やろー? ふふん、もっと褒めてくれてもええんやで!」
「さっさと入ろ」
「ちょっ、無視かいな!」
ドアを開けて軽快にベルが鳴ると同時に、独特で芳醇な香りが二人の鼻腔をつく。
光瀬は無表情を変えず、火焚は目を輝かせながら落ち着いた内装に頷いた。
「いらっしゃいませー。空いてるお席へどうぞ」
店員の言われた通りに、窓際の雰囲気のいい二人席に座る。
お冷が置かれ、メニューを渡されると光瀬はゆっくりとページをめくりながら吟味した。
「どうや亜輝ちゃん。雰囲気とか、ばっちりやろ!」
「ま、及第点ってところかな」
「なんや〜?まだ確証がないんか?ここすっごい美味しいからな!亜輝ちゃんも思わず声出すで!」
「……はぁ。まだ食べてもないんだけどね」
活発な笑顔を浮かべる火焚を前に、光瀬も一人でいるよりかはこういう時間を設けるのも悪くないはないと少しだけ感じ入る。
注文を済ませると、ケーキがくる合間彼女らは色んなことを話した。
「あんまりこの話題を出すのもあれやけど……愛佳ちゃん、亜輝ちゃんのとこにも来たんやって?」
「……そうね。一応は来たよ」
「そうなんだ。……私さ、色々考えたんだけど。まだO市には敵がいっぱいいる。ティシポネ、メガイラ、アレークト、虚罪……いっぱいや」
「……」
「だからね、私誰かが目の前で傷ついて、そして失うのだけはもう、嫌なんや……。だから強くなるよ。光瀬ちゃんたち、大事なものを守れるくらいには」
「そう。程々にね」
「愛佳ちゃんへのこれが唯一の贖罪とか余計なことは考えんけど、あの後の反省くらいは何かに活かしたいからな!」
「………」
明るく話しを閉じた火焚。しかし、光瀬は彼女が少しだけ異様なのを看破していた。
いつもより無理に明るさを装っているようで、何か自分の知らない水面下で彼女が背負いすぎていることも。
しかし、自分がどうしてやることもできないし、してあげる権利も資格もない上に興味もない。
過度に触れ過ぎても自分が余計な被害を被るだけだ。追求を避けながらお冷を少しだけ飲んで気持ちをリセットしていると注文のメニューが来た。
「おっ待たせしましたー! 紅茶とケーキ……ってあれ!? 火焚ちゃんと光瀬ちゃんじゃん!」
驚愕を帯びた声で二人に言葉を向けたのは、見覚えのある顔だった。
「え!? 悠ちゃんやん!?なにしてんの!?」
「わー!こんなところで会えるなんて嬉しいよ!うんうん」
「……」
盛り上がるのは火焚ととある騒動で戦線を共にした葉雲 悠であった。
光瀬は我関せずと言った雰囲気を貫徹する。
「っていうかバイトかいな! UGNと掛け持ち?」
「そそそー! ここ市の境にある喫茶店だから支部ともアクセスしやすいんだよー! 実りもいいし、社会体験ってことで働いてるんだー!」
「偉いなぁ。悠ちゃんは働き者やー!」
注文の品を近くの机に置いて、再開に手を合わせて喜悦する二人。
光瀬はこのままじゃいつまでも続くと察したのか、ため息を吐いて火焚の背中を叩く。
「……ちょっと」
「あー、ごめんごめん! ほな、悠ちゃん頼むわー」
「はいはーい! こちら二人ともケーキセットだねー。ご注文は以上かな?」
「うん!ありがとなー!」
「……ありがと」
「はいねー!追加注文があれば言ってねー!」
そうして、葉雲は上機嫌に厨房へと戻っていく。
「ささ、食べよー」
「……いただきます」
その後ケーキを堪能して、色んな会話を交えた。
オーヴァードもレネゲイドも関係なくただこの時のみは普通の女の子として普通を享受する。
ケーキが予想以上に美味しく、若干ながら光瀬の頬が緩んだのはまた別のお話。
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